食は医なり02

疾病と食の変化

食物栄養学と医学・医療との関わりを重視

ジャングルの中に長年生活する未開の程度の強い部族では、高血圧は見られませんでした。近年、開発が進み、食塩摂取が増すにつれてその血圧が上昇しています。すなわち、人間が食塩の味を知ってから血圧が上昇してきたと考えられるのです。

●伝統的日本食こそ冠動脈硬化を予防する

わが国では、昭和20年代に心筋梗塞にかかる人は欧米生活の長い外交官か美食家でした。ところが現在は私たちの周辺の人にまで見られます。昭和30年ごろP.D.ホワイト博士(アイゼンハワー元米国大統領顧問医でハーバード大学内科主任教授)は、「心筋梗塞を予防するため、日本の伝統的食事をぜひ守ってください。ただし食塩を十分減らしてください」と言われました。この伝統的日本食こそが実は糖尿病や肥満の治療食に最も近いのです。

近年、学校給食で魚と野菜を残す児童が多く、街にはファーストフード、ペットボトルがあふれ、軟らかい肉類や甘いものが好まれています。戦後から現在まで年々増える車の販売台数の増加曲線と糖尿病の増加曲線が極めてよく似ています。飽食と運動不足が糖尿病増加の誘因と考えられます。このように食の変化によって起こる疾病は少なくないのですが、その関係はどこまで明らかでしょうか。

●心筋梗塞の発症が血清総コレステロールの低下により減少する

食のいかなる成分や量が糖尿病、心筋梗塞、がんなどの成人病と関係するか。それを明らかにするには、長い年月と膨大な研究費が必要です。まず、動物実験など実験室で行う食品成分の実験に始まり、人を対象に特定の地域で数千人以上の住民の食事や疾病などを長年にわたって調査したり、多数の地域についての疫学研究や、いったん罹患した患者について、治療・予防効果を上げ得るかについての臨床研究などが必要です。

したがって「食と医」との関連についても、それぞれの疾病においてどこまでわかっているかによって、確からしさが異なります。現在、最も確からしい例として、血清総コレステロール(以下血清コと略す)濃度と冠動脈硬化による心筋梗塞や狭心症が挙げられます。

血清コを動物実験で上昇させると動脈硬化が起こり、血清コ濃度の高い地域や国では心筋梗塞死が多く、血清コを食事や薬で低下させると心筋梗塞の発症が減少し、いったん発症した人では血清コを低下させると再発率が減少し心臓の血管の機能がよくなることなどが、複数以上のグループで確認されています。

●予防医学として食物栄養学は重要である

食とがんについても世上でさまざまな話が飛び交っています。がんの場合、心筋梗塞ほど明らかではありません。長期の研究が必要と思われますが、食生活の改善ががんの予防に有効な手掛かりを与えると考えられ始めているのです。
今日の食物栄養学は『医学・医療』にとってきわめて重要なものとの認識が高まり、その面からの研究も盛んに行われています。それは「予防医学」であり、疾病の病態生理作用を分子レベルで解明する「分子医学」、そして「治療医学」としての研究です。

これらの研究とともに、ヒトの遺伝形質が明らかになると、食と医の関係も遺伝的立場から個人レベルで明らかになると考えられます。

からだの仕組み

ヒトの体は約60兆個の細胞からできている

中学一年生のA君のおじいさんは、天寿を全うされて他界されました。悲しみも消えないA君には「おじいさんは大きい体だったのに、火葬したらこれっぼっちの灰になってしまった。なぜだろう。いつもよく食べていたのに、あの食べ物はどうなっていたのであろう。人間はなぜ三度三度食事をしなければならないのだろう」と、次から次へと疑問が湧いてきました。おそらく、だれもがこのような疑問を持っているのではないでしょうか。

●ミネラルだけが灰に

A君の疑問を解く手始めに、ヒトの体は自然界にある元素からできていることを理解する必要があります。それらの元素のうちで最も多いのは、水素、酸素、炭素、窒素の4元素で体重の96%を占めています。これらの元素は、体の中で化学結合をして水と有機質分子、すなわち、三大栄養素として知られているタンパク質、脂質、炭水化物、および遺伝子として知られている核酸を作っています。体重の60%は水で、タンパク質が17%、脂質が15%、炭水化物が2%、核酸が1%を占めています。他にカルシウム、マグネシウム、カリウムなどの無機質(ミネラル)が約5%を占めます。したがって火葬すると、ミネラルだけが灰として残り、他は燃えて空中に飛散するわけです。水や有機分子やミネラルは、その大部分が小さな袋の中に詰まっています。この中身の詰まった袋を細胞と呼び、ヒトの体は、この細胞が約60兆個集まって、lちょうど、赤レンガ造りのビルのようにできあがっています。

●細胞は生きている

レンガと細胞の違いは、前者が土でできているのに、細胞はタンパク質、脂肪、糖、ミネラル、それに水からできていて、たえず化学反応が起こっている、すなわち、生命現象が営まれていることです。

細胞はその内部で物を作ったり、壊したりしています。物を作る材料や、その際に必要なエネルギーを食べ物から摂取しなければなりません。このように生きている細胞とはどのようなものでしょうか。細胞は袋のような細胞膜で包まれています。袋の中に詰まっています。この中身の詰まった袋を細胞と呼び、ヒトの体は、この細胞が約60兆個集まって、ちょうど、赤レンガ造りのビルのようにできあがっています。

●細胞は生きている

レンガと細胞の違いは、前者が土でできているのに、細胞はタンパク質、脂肪、糖、ミネラル、それに水からできていて、たえず化学反応が起こっている、すなわち、生命現象が営まれていることです。

細胞はその内部で物を作ったり、壊したりしています。物を作る材料や、その際に必要なエネルギーを食べ物から摂取しなければなりません。このように生きている細胞とはどのようなものでしょうか。細胞は袋のような細胞膜で包まれています。

この膜は、リン脂質と少量のコレステロールとタンパク質の分子からできています。細胞の外にあるものは何でも自由に細胞の中に入ることはできません。たとえば、細胞が利用するエネルギーの燃料となるブドウ糖は、糖尿病と関係深いインスリンが細胞膜表面に付着しないと細胞内に入ることができません。

●酵素で化学反応

細胞膜のタンパク質分子は、このようなホルモンを付着させる手(受容体といいます)の働きや酵素(後で述べます)の役目を持っています。

細胞の内部には遣伝子が詰まった細胞核と、その周りにはいろいろの化学反応が営まれる細胞質とがあります。細胞質にも膜でできたいろいろのものがあり、リン脂質とタンパク質分子からできています。細胞内の化学反応は酵素(タンパク質)によって取り仕切られているのです。そして、これらの酵素は核の遺伝子の命令で細胞内で作られています。

細胞のはたらき

部位で異なる細胞の役割に応じた栄養補給を

●水と工ネルギー

細胞の内部では、物が壊れたり(分解)、できたり(合成)していますが、それを取り仕切っているのが酵素であることは先に述べました。このような化学反応を物質代謝と言います。それには水とエネルギーが必要なのです。

細胞は食べ物の炭水化物(でんぶんなど糖質)、脂肪、タンパク質からエネルギーをつくります。もし何らかの理由で食物を取らないと、細胞は自分の体を作っている脂肪やタンパク質を利用しなければならないので、体が痩せてきます。

食べ物は消化管(胃や腸)の中で消化分解され、小腸から吸収された後、呼吸により肺から取り人れた酸素とともに、全身に張り巡らされた動脈の血液によって各細胞に配達されます。細胞内でこれらの分解産物は、さらに分解されて、酸素とともにミトコンドリアと呼ばれるエネルギー生産工場へと運ばれます。

ここで再び化学反応を受けながら、高エネルギー化合物であるATP(アデノシン3リン酸)を製造します。ATPは、必要な時に酵素の作用で分解し、高エネルギーを放出しますので、細胞が物質代謝やその他のいろいろな仕事をする際にエネルギーを供給するわけです。

●新しい細胞を補充

私たちはおふろに人る時に垢が湯の表面に浮かんでくるのを知っています。これは、皮膚の表面をおおっている細胞が死んで剥脱したものです。このように、細胞が剥脱していくのは小腸の上皮細胞でも知られており、その量は1日約300gと言われています。

このままの状態であれば、最後は、皮膚の表面の細胞も小腸の細胞もなくなってしまい、具合の悪いことになります。そこで、私たちの体では、失われた細胞の分は次々と細胞が新しくできて、補充する仕組みになっています。

この新しい細胞は、タンパク質、脂肪、炭水化物、ミネラル、核酸からできていますので、これらの材料を食物から取らなければなりません。細胞はまた、それを作っているタンパク質、脂肪、炭水化物など絶えず作っては古くなったものと入れ替え、いつも良い状態に保っています。古くなったものは分解し、不要となったら尿などに排泄します。また、ある細胞、たとえば、耳下腺の細胞は唾液を作っては口腔中に放出します。

●生命機能を維持

このように、細胞を作っているものが分解されたり、物を作って放出したりすれば、その分、材料を補給しなければなりません。その材料を私どもは食べ物に求めているのです。

私どもの体が生命機能を保持していくためには、どうしても外界から、三大栄養素と呼ばれるタンパク質、脂肪、炭水化物のほかにミネラルなどを摂取しなければなりません。このことを栄養と言います。

体を作るすべての細胞は皆同じではなく、それぞれの部位で役割は異なっています。それに応じた栄養が必要で、バランスのとれた食事を取らなければなりません。ある素材は細胞自身で合成できるものもありますが、必須アミノ酸とか必須脂肪酸とか呼ばれるものは合成できません。これらは食べ物から取る以外に方法はないのです。


消化管の役割

酵素の働きで食物を分子に分解

●体を貫く1本の管

私たちの日常の食べ物は、畜肉、魚肉、野菜、米穀類、食用油といった動植物の細胞やその産物です。すなわち、タンパク質、脂質(脂肪)、「でんぷん」を主とした炭水化物です。これらの中にはミネラルも含まれています。この動植物由来の食べ物を、そのままではヒトの細胞は利用できません。それぞれの成分に分解(消化)され、小さな分子となり体内に入り(吸収)、全身の細胞がそれぞれに適合した方法で利用します。この役割を担っているのが消化管です。

消化管は口から肛門(こうもん)までの、体の中を貫く1本の中空性の管です。口から始まり、口腔、咽頭(いんとう)、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸にわける)、大腸(盲腸および上行、横行、下行、S状の各結腸)、直腸、そして肛門に終わります。口腔入口には歯列があり、食物を噛(か)み砕き、消化酵素が働きやすくします。

口腔には、耳下腺、舌下腺、顎(がく)下腺から唾液が分泌されます。十二指腸(指十二本の横幅と同じ長さの腸)には、膵臓(すいぞう)で作られた消化酵素と重曹が、また、肝臓からの胆汁が分泌されます。

●肉は塩酸でばらばらに

米や餅(もち)の主成分である「でんぷん」は、ブドウ糖が縦横にいくつも結合したもので、唾液中に含まれるα-アミラーゼという消化酵素で、その端にある2個のブドウ糖ごとに結合を切断して麦芽糖を作ります。しかし、口腔での消化はわずかで、大部分は小腸で膵α-アミラーゼによって行われます。胃壁には胃腺があり、塩酸とペプシン(タンパク分解酵素)が分泌され、肉塊は塩酸でばらばらになり、ペプシンでタンパク質が分解します。

塩酸で酸度が高くなった胃内容物(び粥(びじゅく)という)は十二指腸へ送られます。すると、信号が膵臓に送られて重曹が分泌され、酸と中和します。これは、膵から分泌される消化酵素は酸度が高いと働かないためです。

十二指腸では、食べ物は膵臓から分泌されるタンパク質分解酵素、脂肪分解酵素、でんぷん分解酵素と混合し、さらに、胆汁とも混合し、腸管内消化が進行します。しかし、タンパク質やでんぷんの腸管内消化で生じた産物は小さな分子ですが、まだ、吸収されません。

●牛乳を飲むと下痢

また、でんぷんと同族の炭水化物の一部には、全く消化されないものがあります。これを食物繊維と言います。サラダ油など脂肪は、膵からの脂肪分解酵素(リパーゼ)で消化分解され、胆汁と混合して吸収されます。したがって、肝臓病で胆汁の出が悪くなると、脂肪は吸収されず、脂肪便が出ることになります。

牛乳を飲むと下痢をするという人があります。これは、牛乳に含まれる乳糖が消化されず、その結果、吸収されないことが原因です。小腸内でタンパク質はその構成成分であるアミノ酸が2、3個結合したものにまで分解されます。でんぷんもブドウ糖が2個結合した麦芽糖にまで分解します。乳糖や蔗糖(白砂糖)と同様にこのままでは吸収されず、さらに小さな分子に分解されて初めて吸収されます。

小腸の内面には、腸絨毛(じゅうもう)と呼ばれる舌状の突起が多数あり、その表面に吸収細胞が敷石を張り詰めたようにあります。この細胞の表面に、先程の乳糖や蔗糖や麦芽糖等の分解酵素はあります。ここで分解と同時に吸収が行われます。乳糖を分解する酵素の欠損している人が下痢をします。

大腸は消化吸収よりも、水やミネラルの吸収を主としますが、大腸とは異なり、小腸は広く切除すると栄養不良に陥る大切な器官です。

小腸は吸収の主役

腸絨毛は栄養状態によって大きさが変わる

●無数の舌状突起が

私どもが栄養のために摂取する食物を処理し、体内に取り込むために発達したのが消化管であることは先に述べました。そして、消化管の働きのあらましにも触れてきました。ここでは、栄養の主役を演じる腸管、特に、小腸についてもう少し詳しく述べることにしましょう。

小腸は、胃に続く十二指腸から、大腸に流入する回腸端まで、成人で約6mの中空性の器官です。内部表面には、無数の舌状の突起が見られます。この突起は腸絨毛と呼ばれ、栄養素の吸収表面積を広げるのに役立っています。腸絨毛の表面には、敷石を敷きつめたように細胞が並んでいます。

これらを上皮細胞と言いますが、栄養素を吸収する役目を持つ吸収細胞、ねばねばした粘液を分泌する杯細胞、それに、数は少ないが、食物成分がくると、ホルモンを分泌して消化管の働きを促進したり抑制したりする内分泌細胞に区別されます。

この上皮細胞の下部には腸絨毛の芯部(しんぶ)をなして、上皮細胞を支える粘膜固有層と呼ばれる構造があり、ここに、吸収されたアミノ酸や糖を肝臓に運ぶ血管や、吸収されたサラダ油成分などを静脈にまで運ぶリンパ管があります。

●細胞の命は2、3日

この腸絨毛は、糖尿病になると非常に大きくなり、また、肉や魚肉などタンパク質が長期間不足したりするときに起きる低タンパク血症ではぺしゃんことなり、丈も低くなります。栄養状態により、大きさが変わることが知られています。

腸絨毛の表面に並ぶ上皮細胞は、そのつけ根のところにある幼若な細胞が分裂して殖えていきます。新しく生まれた細胞は、芯部の表面を滑るようにして頂部に移動し、そこで死滅して腸管内に剥脱(はくだつ)していきます。この間2、3日かかります。つまり、上皮細胞の命は2、3日ということになります。

剥脱していく上皮細胞は、1日200-300gですから、私どもが食事で取る肉や魚肉の量と比べてみてください。小腸にがんがないのは、上皮細胞が非常に速く新しいものと入れ替わっていることも理由の一つに数えられます。しかし、同じように命の短い大腸の上皮細胞は、がん化する頻度が高いのです。

がん化の要因は、単に細胞の寿命だけではなく、大腸では内容物の停滞時間が小腸より長く、細菌も豊富なため、腸内容物の発酵により産生される発がん物質もかかわっているようです。

●腸に優しい食事を

皆さんもよくご存じの、蕁麻疹(じんましん)やアトピー性皮膚炎は、食物中のタンパク質がそのまま小腸から血管に入って起きる食物アレルギーです。

普通は、腸上皮細胞は隣の細胞と密着していますので、タンパク質がそのまま吸収されることはないのです。しかし、上皮細胞が大量に剥(は)げ落ちたらどうでしょう。このような場合には、腸絨毛の芯部が露出しますから、そこから血管内に容易に入ることができます。

私どものこれまでのネズミを用いた研究から、100%オレンジジュース、ブランデー相当度数(約45%)のアルコールや何回も使用し古くなった食用油などを空腹時に経口投与しますと、空腸のあちこちに、上皮細胞が大量に剥脱したところが認められます。

最近、魚油のDHA(ドコサヘキサエン酸)が話題になっていますが、これも古くなりますと、脂質の過酸化が起こり、小腸上皮細胞を剥がしてしまいます。暴飲暴食を慎み、腸に優しい食事を心掛ける必要があります。