がんと食生活

緑黄色野菜の摂取が予防に有効

がんの原因として一番重要なものはシガレット喫煙と食物です。シガレット喫煙による起こるがんが、がん全体の3分の1を占めています。食生活により起こるがんも同様に、がん全体の3分の1を占めると考えられています。

シガレット喫煙と食物により生じるがんが、がん全体の3分の2を占めると推定され、これは世界の学者に、大体受け入れられています。

●ウイルス感染でも

がんの原因としては、むろん他の要素もあります。職業上発がん性物質にさらされたり、性ホルモンや大気汚染、ウイルス感染、その他があります。

シガレット喫煙および食生活を除いた要因で最も大切なのは、ウイルス感染でしょう。

わが国の場合、肝臓がんの大部分が、ウイルスの感染により起こるということが、過去10年間に明らかになりました。すなわちB型肝炎ウイルスの持続感染、およびC型肝炎ウイルスの感染で、大部分の肝臓がんは発生します。

子宮頸部のがんも、パピローマウイルスの感染で起こるということが、はっきりしてきました。以前予想されていた以上に、ウイルスによる発がんが多いのです。

●世界的に膨大な研究

食生活とがんの関係については、世界的に膨大な研究が行われています。がんの3分の1は、食生活によるとされているのですから、この関係の検討は重要です。私自身も乳がんや胃がんと食生活の関係を研究してきました。

米国の学士院は、10数人の学者に依頼し、この関係を検討し、1982年に「食物・栄養とがん」という報告書を作成し出版しました。それ以来10年以上が経過し、WCRF(世界がん研究基金)が、世界の15人の学者に依頼し、最新の検討および報告書を作成中です。

●抗酸化性ビタミン

以上のように、食生活とがんの関係は簡単には、とても言えるものではないのですが、一般の読者のために、がんの予防につながる食生活についてひと言で言えばどうなるか述べましょう。

まず肺がんですが、男性では肺がんの3分の2がシガレット喫煙により生じています。肺がんの予防に最も良いのは、喫煙をはじめからしない、あるいはやめることです。

しかし、食生活にも関係があり、緑黄色野菜の摂取が予防的に働くことが次第にわかってきました。

緑黄色野菜の中の抗酸化性のビタミン、ビタミンCやビタミンE・さらにβ-カロチンが、発がんを防ぐ上で重要と考えられています。

もっとも抗酸化性のビタミンのほかに、緑黄色野菜には種々の成分が含まれています。まだわかっていないそれらの成分が、有効であるのかもしれません。

ここで、バランスの取れた食事、とくに緑黄色野菜を重視した食生活が大切であることを強調しておきます。

胃がんと高塩食品

リスクを高める要因への正しい認識を

肺がんは日本の男性では最も死亡率の高いがんです。肺がんの他に男性の肝臓がん、女性の子宮頸がんも非常に多いのですが、これは主としてウイルス感染により起こり(全部ではないが)ます。

● 漬物など10倍以上

食物・栄養と最も関係が深いのは胃がんです。胃がんはわが国で長年にわたり、死亡率が最も高いがんでした。胃がんの原因については、世界的に種々の研究があり、また我々も研究してきました。

胃がんには非常に大きな地域差があり、日本海に面した東北や北陸が高率で、鹿児島とくに沖縄が低率です。胃がんの原因には、高塩食品(漬物、塩魚など)の摂取が一番関与しています。高塩食品は胃壁を胃酸などから保護している粘液層を破壊し、胃がん発生のプロモーター作用(発生を助長する作用)があります。

胃がん患者と健常人とを比べますと、胃がん患者は高塩食品の摂取量が明らかに多いのです。我々が行った日本国内6県の調査では、胃がんの効率地域は押しなべて高塩食品を多く取り、漬物などは10倍以上の量を食べていました。

● がんを防ぐ緑黄色野菜

胃がんの発生を逆に防ぐものは、抗酸化性のビタミン類、β-カロチンなどです。抗酸化性のビタミン類を大勢の人に与えた中国の研究で、胃がん死亡率が約20%減少しました。

私はハワイ日系人の研究を長年続けてきました。同じ日本人であっても、日系人の食生活は大いに違います。日系人と同じように高塩食品の摂取を避け、緑黄色野菜や新鮮な果物を多く取ることにより、胃がんは日系人並の、現在の3分の1程度までに減少させることが可能と思われます。

食物が、胃に入る前に通るのが食道です。フランスのある地方では、がんの中で食道がんが一番多いのです。食道がんの大部分は、酒類、タバコのために発生することが、少々専門的になりますが、患者対照研究結果より明らかになりました。そのフランスの食道がんの多い地域では、我々には、想像もできないくらいの大量のワインを飲んでいます。

● リスク上げる高脂肪

結腸がんの成因については今なお論争があります。しかし一般論として、高脂肪の食事がリスクを上げ、食物繊維の摂取や体を動かすことがリスクを下げるとされています。結腸とは肛門近くの大腸(直腸)を除いた大部分の大腸のことです。結腸がんは近年増加傾向が明らかで、その予防が大切です。

食物・栄養との関連では、乳がんも忘れるわけにはいきません。欧米では女性に一番多いのは乳がんであり、日本でも近年急増しています。乳がんの成因としては出産の関連が大きく出産年齢が高くなるほどリスクが大きくなります。

私どもの研究では35歳以上で初めて出産すると乳がんのリスクは4倍以上になります。さらに栄養も関与し、私どものハワイでの研究を含め世界の12の研究例を集めたメタアナリシスという解析では、閉経期以後の乳がんで、飽和脂肪酸の摂取がリスクを高め、緑黄色野菜が防御的に働くことが示されました。


食物とがんの関係については雑誌、テレビその他でよく報道されています。しかし正しい知識を得ることが大切で、その意味ではこの稿を参照にしてくだされば幸いです。なお日本人の10人の学者がこの問題と取り組んで書いた「がんとライフスタイル」(日本公衆衛生協会、廣畑編)が刊行されています。

水と健康

環境汚染で水質の悪化が進む

●年間600億tの雨雪

昨年来の水不足の際は、水のありがたさをつくづく感じたものです。地球における水は、海や氷原、湖沼、河川、地下水といった形で存在します。それが太陽熱を吸収して蒸発し、大気中で凝縮、雨や雪などとなって地表に降り、河川や湖沼、海へとかえる循環をしています。日本国内の水は、年間約600億tの雨や雪が循環していると言われています。

水は私たちの生活に欠くことのできないもので、大きな恩恵を受けています。食品の生産・加工、食物の調理、清涼飲料水、酒などを含めた日々の食事、食器洗いから衛生的後始末に至るまで200l前後の水を使用し、ふろ、シャワー、洗濯、洗車などを加えた毎日の1人当たり上下水道使用量の全国平均値は、平成4年度に398lに達し、最大使用量は491lに上っています。

●おいしい水を求めて

私たちが使う上水は、沈殿、ろ過され、塩素ガス滅菌されて、貯水池から各事業所、公衆建物、市街地商業ビル、各家庭へと配水されています。

今日の上水道は、戦前戦後の一時期に日本が体験した赤痢、チフス、パラチフスなどの水系伝染病の原因にならないように十分な管理がなされています。ご存じの様に、好塩菌(ビブリオ)などによる集団下痢や、駅弁、仕出し料理に紛れ込んだブドウ球菌によるおう吐、発熱などの食中毒が夏などに発生していますが、昔のように河川や水道から赤痢やチフスなどが流行する消化器系の水系伝染病は今日ではほとんど報告されなくなりました。しかし、1996年(平成8年)になり病原性大腸菌O-157の多発があり、水系伝染病系のものもあったことが報告されているのは大変気になります。

しかし、人々は上下水道よりも昔のようなおいしい水を求めて、非汚染地域の山岳部や高山の泉や井戸へ水くみに出掛け、街にはそれらの水を瓶詰めにしたミネラルウォーターが売られています。また、スポーツ・ドリンクを身につけて歩くのがファッションにもなっています。さらに、環境庁は全国の名水100カ所を選定し、きれいな水の保全に努めています。

●循環過程で汚染

これには、上水を取水している河川などの水質の悪化が考えられます。私たちが使用した水は、下水処理されたり、自然還元されて蒸発し、雨や雪となって降り、地上水や地下水となって、また上水へ循環します。この水の循環の過程で工場排水、家庭廃水などによる河川や湖沼などの富栄養化、大気汚染や土壌汚染、地下水汚染といった自然環境汚染が水質の悪化に重要なかかわりを持っていることも考えてください。水俣病・イタイイタイ病・慢性ヒ素中毒症などは水質汚染により引き起こされた特異性公害病です。再びこのような過ちは絶対あってはなりません。

平成6年に福岡県下の大川、柳川、八女市一帯で、深井戸(深さ40m以上)を中心に、ヒ素による土壌汚染が発見されました。人身に影響はありませんでしたが、その例の一つです。井戸水にも健康に影響するいろんな問題があります。

浅井戸(深さ10m未満)では、微生物による伝染病や工場排水や土壌汚染による中毒症発生の危険性がないとは言えません。深井戸も地層によって重金属の汚染、中毒といった問題もあります。井戸水を使う場合は、最寄りの保健所でぜひ水質検査を受けたいものです。

●海水と似た成分比

水は5大栄養素に加えて6大栄養素と言われることもあります。

これはヒトの体内の中には、海水とよく似た無機化合物成分比の体液を持っていることによります。ヒトは海から上陸して進化したもので、血液は赤血球で酸素を運び炭酸ガスを肺から排出する陸棲哺乳動物の一種です。ヒトの体液の中には細胞があり、細胞同士の浸透圧を調整しながら一生を終わるのです。体液全体の70%前後、血液の80%は水で、水の仲立ちで栄養素やホルモン、代謝物を有効に使い、最終代謝物を糞尿などとして排泄しています。

このように私たちは水と深いかかわりを持っていて、水なくして命はありません。太陽系第三惑星、碧き水の滴る緑の星-地球を水とともにいとおしみ、水とともに生態系を保持し、共生していきたいものです。