食は医なり25

過酸化脂質

酸素ラジカルの有害な作用

古くなった「インスタントラーメン」、油で揚げた「あられ」、魚の「干物」などが不快なにおいや味を示すようになることは、よく知られています。最初はにおいのなかったサラダ油も古くなると油臭くなります。

これらは、植物油や魚油に多く含まれている多価不飽和脂肪酸が変化することによるものです。

このようにして変化してできる物質は、過酸化脂質と呼ばれています。窒素を充填(てん)して保存した食品では起きにくいことなどからわかるように、この反応は酸素によって起きるものです。

●老化の原因に

過酸化というとすぐに思い出されるのは、消毒に使われる過酸化水素(オキシドール)でしょう。過酸化水素は、「うどん」などの防腐剤として使われていたことがありましたが、発がん性の疑いから使われなくなっています。過酸化水素と同じように、過酸化脂質もわれわれの体に有害なのです。

過酸化脂質は古くなった食品にあるだけでなく、酸素が作用することによって、われわれの体の中でも作られています。年を取るとともに過酸化脂質は増え、これが老化の重要な原因の一つになっています。

酸素はわれわれにとって一刻もなくてはならない物質です。しかし、微量ではあるが空気中でも体内でも、生体の物質を傷害する有害物質が酸素から作られています。

これらは、「酸素ラジカル」とか「活性酸素」と呼ばれるものです。酸素ラジカルは寿命が短く、すぐに分解するので存在量は多くありませんが、生体物質と反応しやすいのです。

●多くの病気の原因

酸素ラジカルが脂質と作用することによって過酸化脂質が作られ、逆に過酸化脂質から酸素ラジカルが作られ、反応は連なった鎖のように進行します。(連鎖反応)。酸素ラジカルは脂質だけでなく、タンパク質や核酸にも作用して傷害は広がります。

酸素ラジカルは直接、間接に多くの病気の原因となっています。前にも述べましたように、老化と密接な関係が考えられています。未熟児保育器の酸素濃度が高いときに起きた「未熟児網膜症」も酸素ラジカルによる網膜の傷害であったのです。エックス線などの放射線によっても酸素ラジカルは作られます。

酸素ラジカルによるデオキシリボ核酸(DNA)の傷害は発がんの原因にもなります。ベンツピレンなどの発がん物質は、体内で代謝されるときに酸素ラジカルを生成します。

●有害物質の形成

さらに、血液の低比重リポタンパク質(LDL)は、酸素ラジカルによって過酸化されることにより動脈硬化の決定的要因の一つになると考えられています。

糖尿病で失明や腎不全が起きるのは細動脈の硬化によるものです。これはブドウ糖の結合したタンパク質が酸素ラジカルを作り、低比重リポタンパク質を過酸化することによる可能性が高いのです。

心筋梗塞で心臓の組織が損傷されるのも酸素がないために起きるのではなく、酸素が再び供給され始めたときに酸素ラジカルが作られるためと言われています。

このように有害な酸素ラジカルは、酸素があれば至るところで作られていると言って過言ではありません。しかし、われわれの体は、この有害物質に対抗する能力を持っていますし、緑黄野菜に多く含まれている抗酸化物は、酸素ラジカルの有害作用から体を守っています。

酸素ラジカルの無毒化

“焼き魚に大根おろし"はご先祖さまの知恵

空気中の酸素から有害な酸素ラジカルが絶えず作られ、これらが動脈硬化、がん化、老化などの原因となっています。しかし、完全とは言えませんがわれわれの体には、このような危険なラジカルを消去する能力がありますし、また食物中、とくに緑黄色野菜にはこのような毒物を無毒化する物質が存在しています。われわれは酸素なしには生きていくことができないので傷害を完全に避けることはできませんが、がん化とか老化を少しでも遅らせることはできるのです。

●金属を含む酵素

地球は約46億年前に作られたときには、大気中にはほとんど酸素が存在しませんでした。したがって約40億年前に出現した生物は、酸素を必要としなっかたのです。藻類が光合成で酸素を放出するようになって、酸素の濃度が上がるとともに生物は、酸素の有害な作用から身を守るいくつかの種類の酵素を持つようになりました。このようにして生物は酸素を利用できるようになり、進化が可能となりました。

これらの酵素がいかに重要であるかは、このような酵素を持たない破傷風菌などが、酸素があると生きていられないことに示されます。これらの酵素の多くは鉄、銅、亜鉛、セレンなど金属を含んでいます。鉄や銅はこのように防御の役割を持ってはいますが、逆に酸素ラジカルを作る作用も持っているのです。セレンはふつう食品に充分に含まれているので不足することはありませんが、心筋の変性を起こす風土病の克山病は、セレン欠乏によるものです。

●過酸化を止める

このような酵素のほかに、生体内には酸素ラジカルから身体を防御する物質(抗酸化物質)が存在しています。ある種のタンパク質は鉄や銅と結合することによってラジカルの生成を抑制しているのです。また尿酸やビリルビンなどのような体内で作られる低分子物質も酸素ラジカルを消去する性質を持っています。

ここで食品とくに緑黄色野菜の重要性が注目されます。食品中にはいろいろの抗酸化物質が存在しています。これらの抗酸化物は食品内の物質が酸素ラジカルによって変化するのを防ぐだけでなく、消化管から吸収されて体内で抗酸化作用を示しています。代表的なのはビタミンE、Cおよびカロチン(ビタミンAの前駆体)です。ビタミンCの効果は還元作用によるものであり、カロチンやビタミンEは油に溶ける性質から脂質過酸化の進行を止める性質を持っています。

●がんの予防効果も

これらの物質をある期間与えて、がんや心筋梗塞の予防効果を調べる介入試験が世界各地で行われています。これらのほかに、緑茶中の抗酸化物質や、ぬか、ふすまに含まれているフィチンが鉄と結合することによって抗酸化作用を示し、がんの予防効果のあることが報告されています。

紫外線、放射線、大気汚染、薬品、農薬など酸素ラジカルを生ずる原因はますます増加しています。酸素ラジカル発生の原因となる焼き魚や焦げめのあるビフテキの付け合わせとして、大根おろし(ビタミンC)やニンジン(カロチン)を用いてきたご先祖さまの知恵には、感心するばかりです。

食品の安全性

-細菌性食中毒-

低温保存、食前加熱で予防する

「あっ、腐ってる」と言って食べものを捨てた経験は、だれしも持っていることでしょう。食べものに細菌やカビがついて繁殖すると、タンパク質が変質して各種のアミン、有機酸、あるいはメルカプタンなどが生成し、悪臭を出したり、変な味になったり、また人体に有害な作用を及ぼしたりします。デンプンや脂質もまた各種の変化をうけます。そんな腐敗食品を敬遠するのは当然のことです。一方、香りや味、それに色、形に異常のない食べものには、通常、何ら不安を感じることなどありません。本来、食べものとは安全なものであるはずで、これもまた当然のことと言えましょう。しかし、そのように外見的に何の不都合もない食べものに、実はしばしば有害なものが含まれ、取り返しのつかない食中毒が発生するのです。食中毒を引き起こす原因は、一般にヒトの五感で察知することはできないからです。

●細菌性食中毒

食中毒にはいろんな種類がありますが、大別すると細菌性食中毒、自然毒食中毒、化学性食中毒の三つになります。これらの中で最も発生例が多いのは、急性胃腸炎型の細菌性食中毒で、細菌の増殖に適した高温多湿の夏季に、かなり集中的に起きています。サルモネラ、腸炎ビブリオ、あるいはブドウ球菌食中毒などは、その代表的なものです。このタイプの食中毒は、一般に事故の規模が大きく(一件当たりの患者数が多い)、症状(下痢、腹痛、吐き気、おう吐、さらには頭痛、発熱を見ることもある)の激しい場合もありますが致命率は低く、少数例を除きめったなことで死ぬようなことはありません。

●ボツリヌス菌は別

ただし、ボツリヌス菌食中毒は別で、食品中で菌が産生する毒素量にもよりますが、通常の消化器症状に続いて、特異な神経症状(視力低下、舌のもつれなど)が起こり、ついには横隔膜神経の麻痺(まひ)による呼吸困難で死ぬことになります。きわめて致命率の高い食中毒です。幸いというか、わが国での発生例は少なく、これまで北海道や東北地方の「いずし」による少数例が大部分でした。しかし、昭和59年(1984年)、熊本県で製造された真空包装の「辛子レンコン」による食中毒は、患者数37人、死者12人に及ぶ大規模な事件でした。ボツリヌス菌は偏性嫌気性菌といい、空気のないところでしか増殖できません。すなわち、何らかの理由で侵入した菌が、製品の真空包装があだとなり、流通過程で増殖し、多量の毒素を産生したものと考えられています。

●調理食品は早めに

食品の製造や調理に携わる者が、食中毒菌に汚染された食品を提供しないよう努めることは当然で、調理場の清潔保持(ネズミや昆虫の駆除など)に加え、手指、調理器具の洗浄、消毒などには特に留意すべきです。一般の消費者としては、調理した食品はなるべく早く食べること、また低温保存を心掛け、食べる前には加熱するなどが、食中毒の予防に欠かせない大切なことと言えます。食中毒菌の多くは中温菌に属し、セ氏5度 - 10度以下の低温では増殖し得ず(ただし死滅はしない)、また加熱に対しては弱いからです。

食品の安全性 -自然毒食中毒-

生かじりの知識が死を招く

● 患者は増加し若年化

細菌性食中毒に次いで発生頻度が高いのは、自然毒食中毒です。件数は総件数の10ないし15%にすぎませんが、フグや毒キノコによる食中毒がこれに入り、死亡者数で言うとトップです。

自然食というイメージは、何となく健康食というイメージに重なります。しかし、食べものとしての動植物の中には、その体内で自然に作られた強力な毒物を含むものもたくさん知られています。その代表がフグ毒やキノコ毒です。フグについては、近年でも毎年数10件の中毒例と数人から10人近い死亡者が報告されています。しかも、その多くは素人料理が原因です。

フグ毒の本体はテトロドトキシンと呼ばれる麻痺性の神経毒で、急性毒性の強さは青酸ナトリウムの実に1000倍もあります。その含量はフグの種類や臓器、季節によって異なるため、生かじりの知識が、かえって死をもたらすことになります。通ぶって毒力の強い肝臓を食べたり、卵巣を精巣(白子)と間違え死亡した例もあります。フグに関しては、有資格者の調理に任せることが肝要でしょう。

●食物連鎖で蓄積

昔はフグ自身の体内でこの毒が作られていると信じられていました。しかし、フグ以外の生物から同じ毒が検出されたり、養殖フグが低毒性であることなどから研究が進み、現在では、この毒物はビブリオ属などの海洋細菌によって作られたものが、食物連鎖などにより、フグの体内に蓄積されたと考えられています。

日ごろよく食べるホタテガイ、イガイ、ハマグリ、あるいはアサリなどの二枚貝が、突然フグ毒に似た麻痺性の猛毒(サキシトキシンなど)を含むものに変身することもあります。これも貝自身が毒を作るのではなく、餌となる有毒プランクトンに由来するものです。二枚貝には、同様な有毒プランクトンによる下痢性貝毒(オカダ酸など)を含むものも知られ、油断なりません。これらに対する予防策として、各生産海域で季節的に毒力検査によるチェック体制が取られています。

●食用と間違えて

大自然に親しむのはいいことですが、有毒のキノコや山野草を食用と間違えて採食し、中毒することには十分の注意が必要です。わが国では、1000種に余るキノコが自生していると言われ、そのうち約30種が有毒キノコとして知られています。シメジやシイタケと誤認されやすいツキヨダケは、中毒発生例も多く、胃腸炎のような症状を呈しますが、ほぼ、1、2日で回復します。これに対し、ドクツルタケ中毒は、コレラのような激しい症状を起こす致命率の高い中毒です。その毒の本体は環状 ペプチドという構造の猛毒で、死亡例を含む中毒が平成5年には2件報告されています。

●冒険心は禁物

各種の有毒植物による中毒例も、特に北部から中部日本にかけ散発しています。たとえばトリカブトは、その根茎に麻痺性の猛毒アコニチンが含まれ、昔は矢毒として狩猟などに用いられ、また最近では犯罪にも悪用された例もある植物です。平成4年には山形県で、山菜ニリンソウと間違え「おひたし」にして中毒した例、岩手県では野生ミツバチのハチ蜜による中毒が、トリカブト由来のアコニチン中毒とされた変わった例が発生しています。

食べ物に関する限り、冒険心は禁物で、知らないキノコや山野草には手を出さないことが肝要です。毒キノコの判別方法として民間に伝承されている条件も、例外が多く、信じては危険です。

食品の安全性 ー化学性食中毒ー

悲惨な事件の発生につながることもある

食べ物の中には、その内部でできた自然毒のほかに、外から入り込んだ有害物質が含まれることもしばしばです。これらによる食中毒を化学性食中毒と言います。その発生件数は、細菌性や自然毒食中毒に比べると少ないのですが、いったん発生すると大規模な事件になることが多く、なおざりにはできません。

たとえば、水俣病、イタイイタイ病、ヒ素混入粉ミルク事件、さらにはカネミ油症など、いずれも企業の不注意から食べ物が毒物に汚染され、それによって発生した悲惨な事件です。これらの事件発生以来すでに数十年を経過するいまなお、患者の苦悩が続いており、化学物質による中毒の恐ろしさを如実に示しています。このような事件では、たとえ原因がわかったとしても、いったん発生した中毒を根治することは至難の業で、最も有効な措置は、その発生の予防にあることは言うまでもありません。

●猛毒ダイオキシン

このほか多くの化学物質が、産業の発達とともに世に出て環境を汚染し、飲食物を介して人体に障害をもたらす可能性が危惧(きぐ)されています。各種の農薬やPCB、それにプラスチック可塑剤(フタル酸エステル)などは、その一例です。これらには一定の用途があるけれども、何ら特定の用途もなしに世に出てきた有害物質も少なくありません。

たとえば、ベトナムでの米軍の枯れ葉作戦で一躍有名になった猛毒ダイオキシンも、もとをただせばこのとき散布された除草剤中の単なる不純物なのです。 この毒物は各地のゴミ焼却に際しても、微量生成することが知られています。何の役にも立たぬばかりか、人体に有害なものがこうして身辺に存在するのです。

●カビにも強い毒性

危険なものはまだあります。それはカビ毒と呼ばれるものです。これが世界に注目されるようになったのは、英国での七面鳥の大量斃死(へいし)事件以来のことです。この原因となったのは、飼料中のブラジル産ピーナッツに寄生したカビ(アスペルギルス・フラバス)が産生した毒物でした。この毒にはアフラトキシンという名がつけられ、強い急性毒性と発がん性をもつ物質であることが明らかにされています。カビ毒を産生するカビはほかにもありますが、これらは主として熱帯、亜熱帯地方に分布し、乾燥不十分な穀類(トウモロコシ、米、麦など)やナッツ類に寄生しやすいことが知られています。

●必要な毒性評価

このような状況を考えると、食べ物の安全性に対する不安は尽きませんが、あまりに心配し過ぎるのも考えものです。現在の分析技術をもってすれば、ピコg(1兆分の1g)の超微量物質すら検出が可能で、このような微量の有害物質が検出されたということ自体を、あたかも有害作用の発現であるかのように考えるのは、あまりにも短絡的です。当然のことながら、科学的基盤に立っての毒性評価が必要であります。

最後にもう一つ問題が残っています。ご存じのように、食べものには、意図的に加えられる食品添加物が各種含まれています。

食品の安全性 -添加物-

合成添加物も天然添加物も化学物質

食品添加物というのは、食品の品質の改良、保存性や嗜好性の向上、さらには栄養価値の増進などを目的として使用されるものです。これにより、食品の大量生産や広域流通も可能となり、また価格の低下にも役立っています。しかしその反面、食品に「意図的」に加えるものであるだけに、消費者に不安を抱かせ、その安全性については特段の配慮が必要となります。

戦後50年を経て、わが国におけるライフスタイルや食事メニューは著しく変貌し、それを反映して加工食品の急激な増加が見られ、必然的に添加物の需要が伸びています。添加物には、化学的合成品(合成添加物)とそうでないもの(天然添加物)とがあります。両者とも化学物質であることに変わりはなく、同じように使用されているのに、つい最近まで添加物としての法的取り扱いが異なりました。合成添加物は、当然のことながら、有用性や安全性など厳しい基準による審査を受け、厚生大臣による指定を受けねばなりません(指定制)。

これに対し、天然添加物の方は、都道府県知事を通じて報告書を提出すればよく(報告制)、前者のような厳しい審査を受けての指定は必要ありませんでした。両者の添加物としての扱いに差をつける根拠は薄く、天然添加物についても合成添加物並みの安全性評価がなされるべきです。※

これまで一般消費者の間にも、天然添加物の方が何となく安全という思い込みがあり、わが国では諸外国に比べその使用が多いようです。現在、添加物リストに収載されている合成添加物は350品目で、天然添加物は1051品目もあります。

※注 1995年(平成7)5月の食品衛生法の一部改正により、天然添加物についても、合成添加物同様の指定制が導入され、1996年(平成8)5月より施行されている。

●安全性は動物実験で

添加物の安全性は、主として実験動物による毒性試験の結果に基づき評価されます。そのため種々の試験が行われますが、添加物のように、毎日少量ずつ一生摂取するものに対しては、慢性(長期)毒性試験が重要です。この試験結果などから、その動物に一生、毎日投与しても何ら影響を与えない量(最大無作用量)が決められます。これを人間に当てはめるのに、あまり明確な根拠はないのですが、おおよその見込みで100倍の安全率を想定し、通常、動物における最大無作用量の100分の1を、人間の一日摂取許容量(ADI)としています。これは人間が一生食べ続けても大丈夫という量とされ、体重1kg当たりのミリグラム数で表されます。

●使用は必要最小限に

添加物によっては、その推定一日摂取量がこのADIを超えることのないように、使用しうる食品を限定し、また食品への添加量の上限を決めている(使用基準)ものもあります。

最近、添加物の表示規定が大幅に改定され、一部の例外を除き、すべての添加物の表示が義務付けられました。これにより消費者は食品の内容を知り、かつ選択することがより容易になったわけで、歓迎すべき改正と言ってよいでしょう。現在の食生活において、添加物の使用は不可欠とも考えられますが、技術の進歩により使用しないで済むものは使用せず、また使用量は必要最小限にとどめることが必要です。まして、添加物を食品の欺瞞の目的で使用するなどの不正は、厳に慎むべきであることは言うまでもありません。

食品の機能性

生体リズムや免疫系を調節する三次機能

●栄養素のほかに

食品とは、タンパク質やビタミンなどの栄養素を供給するために摂取されるものです。この栄養素供給源としての特性を、一次特性あるいは一次機能と言います。

また、食品はヒトの食べものである以上、おいしいかまずいか、好きか嫌いかというヒトと食品との間にある嗜好性の問題があります。これを二次特性(二次機能)と言います。食品には需要と供給、自給率などの経済的な側面もありますが、ここでは置いておきましょう。

さて、食品には、これらの機能とは別に、栄養素あるいはこれ以外の成分の持つ生体に対する機能、すなわち食品による生体リズムの調整、神経の覚醒と鎮静、免疫系の調節にかかわる機能などが見いだされるようになり、これらを三次機能として積極的に解明が進められるようになってきました。

これらの食品を機能性食品と呼んでいます。

●健康食品とは区別

機能性食品は、機能性因子が特定されずその有効性が解明されないまま一般に出回っている、いわゆる一部の健康食品とは明確に区別されなくてはなりません。

機能性食品として認定されるには、

@機能性因子を有することが明らかである

A機能の機序が解明されている

B因子の存在状態が特定される

C摂取後に機能が実際に発現する

D安全性が確認される

E作成および使用目的が明確である

―などの条件が必須となります。

このような条件のもとで活発な研究、開発が進められた結果、いくつかの機能性因子が特定され、これを利用した食品(加工食品)が作り出されました。

平成3年、厚生省はこれらの食品のうち、「食品や食品成分と健康の関わりに関する知見から見てある種の効果が期待される食品であって、食生活において特定の保健の目的で使用する人に対しその摂取によりその保健の目的が期待できる旨の表示が許可された食品」として、審査に合格したものに「特定保健用食品」という名称を与え「特別用途食品」の中に位置付けしました。

●課される厳しい条件

審査には、

@食生活の改善が図られ、健康の維持増進に寄与することが期待できるもの

A食品または関与する成分について、医学・栄養学的に根拠が明らかにされているもの

B食品または関与する成分の適切な摂取量が、医学・栄養学的に設定できるもの

―など8項目の厳しい条件が課されています。

平成5年、米に含まれるグロブリンが原因でアトピー症状を引き起こす患者のために、グロブリン含有量を低減した加工米と、慢性腎不全患者のためのリン含有量を減らした粉ミルクが許可されました。引き続き、いくつかの食品が許可されましたが、審査中のものもたくさんあります。

特定保健用食品

正しい知識をもって目的に合った利用を

私たちの消化管には、たくさんの種類の微生物が住み付いています。特に結腸や大腸に多く、腸内菌叢(きんそう)と呼ばれています。糞便1gの中には、何と10の11乗、約1000億個もの微生物が検出されます。その種類も多く、詳しく調べると約百種類にものぼると言われています。これらの微生物はわれわれと共存して、さまざまな働きを持ち、健康と深いかかわりを持っています。

●有用なビフィズス菌

腸内菌には、乳酸菌の一種であるビフィズス菌などのようにわれわれにとって有用な菌もいれば、ウェルシュ菌のようにありがたくない菌もいます。このような多くの菌は、お互いに競争しながら住みわけています。

体調を崩したとき、また老化によって、悪玉の菌が優勢になります。ある種のオリゴ糖はビフィズス菌を育て、菌叢を良好な方向へ転換する働きがあることがわかってきました。

腸内菌は、腸内容物を分解し、さまざまな分解産物(糞の悪臭もこの一つ)を生産しますが、中にはニトロソ化合物やトリプトファン代謝物など、発がん性や発がん促進性のある物質も検出されることがあります。食物繊維はこれらの物質を吸着し、通便を促す作用があることはよく知られています。オリゴ糖にも、同様の作用が確認されています。

● 肥満防止の作用も

オリゴ糖とは、単糖類(ブドウ糖や果糖など)が2個以上数個結合した糖類を言います。大豆などには3糖類のラフィノースや4糖類のスタキオースが含まれています。これらを摂取するとビフィズス菌が育ちます。最近では、ショ糖に果糖を1ないし3分子結合させたフラクオリゴ糖が、フラクトシルフラシノダーゼという酵素を利用して生産されています。

オリゴ糖にはその他、ミネラルの吸収促進作用もあると言われています。オリゴ糖は甘味を持つため、砂糖の代用品として使われることも多く、消化、吸収されないことから肥満防止、血糖値上昇抑制、また抗齲歯(虫歯予防)性もあります。

大豆のオリゴ糖やフラクトオリゴ糖を素材としたいくつかの食品が、特定保健用食品として表示許可を受けています。

● 薬品とは異なる

特定保健用食品にはその他、血漿脂質、特に血漿コレステロール改善作用を持つ大豆グロブリン(大豆に含まれる主要タンパク質)を素材とした食品、同じくコレステロール改善効果、さらにアトピー性皮膚炎改善効果を持つγ-リノレン酸を用いたもの、カルシウムをクエン酸やリンゴ酸と特殊抱合させて、吸収利用を著しく高めたCCM食品、食物繊維を利用した食品などがあり、表示許可を受け、また審査を受けています。

野菜などには」、抗変異原性物質の存在も確認されており、食品の機能に関する知見はますます増加するものと思われます。

さて、このような食品は日常生活において、どのように利用すべきでしょうか。その機能が明らかであるからといって、いや機能が知られているからこそ、目的を持って利用されなくてはなりません。

健康を保つためには、まず食品の第一次機能である栄養のバランスを取り、適度な運動と休養をとることが何より大切です。

機能を持つ食品は薬品とは異なります。食品として、その機能を生かすべく正しい知識を持って利用されなければなりません。医師や栄養士に相談されることも大切となるでしょう。

食品の機能性解明の研究進む

野菜や果物にはがん化の防止機能が

食品の機能性解明について進められている研究の例をいくつか紹介しましょう。

● 発がんと抗変異原物質

食品を加工、調理する際、過熱や成分間反応でトリプP-1やニトロソ化合物など、強い変異原性を示すものが生じることが知られています。また食品の中には、これら変異原活性を抑える働きを持つ物質の存在も、確認されるようになってきました。

がんは、遺伝子が損傷を受ける発がん(イニシエーション)と、この変異が固定化され、がん化が促進されるプロモーションの2段階で、発現すると考えられています。また発がんと変異原物質には、深い関係があることが知られています。

変異原性の試験法としては、微生物の一種、サルモネラ菌の変異株に突然変異を引き起こさせるか否かを検定する方法(エイムス法)が最も一般的に用いられます。

● 疫学的研究でも

野菜や果物の中には、抗変異原成分が数多く含まれていることが、次第に明らかになってきました。ホウレンソウ、キャベツ、ゴボウなどの野菜ジュースは、トリプP-1やニトロソ化合物の変異原活性を顕著に抑えることが知られています。そして、これらの有効成分がビタミンCやβ-カロチンなどのビタミン関連物質、システインやグルタチオンなどの還元性物質、クロロゲン酸、フェルラ酸などのポリフェノール化合物やペルオキシダーゼ酵素であることも明らかになってきました。

最近では、これらの既知の物質のほかに、高分子性の未知の物質の関与も明らかにされつつあります。

ヒトの細胞には、傷ついた遺伝子を修復する能力があります。発がんからがんの症状が現れるまでには、さまざまな経過をたどることが必要で、がんは簡単に発病するわけではありませんが、野菜類は各段階でがん化を防止することが、明らかにされつつあります。

野菜類を積極的に取る人は、がんになるリスクが低いことが、疫学的研究でも明らかにされています。

● 生体調節因子の存在

ミルクには、免疫能促進作用、、成長ホルモンなど各種ホルモン分泌促進作用など、多くの生体調節因子の存在が知られています。また、オピオイドペプチド様の鎮痛作用を持つ成分も内在しています。

そばや梅干し、ハマグリなどには、アンギオテンシンUの生成を抑えて血圧の上昇を防ぐ、ペプチドやポリフェノール化合物が含まれています。

ホウレンソウやニラなどには、生体防御物質のマクロファージやハイブリドーマ細胞の増殖促進因子の存在も確認されています。

ゴマには、アルコール分解酵素の働きに、活力を与える成分も確認されています。 今後、さらに知見が広がることが期待されます。

● 原材料は生物体

食品とは、ヒトの食べ物を言いますが、ヒトのため、食品としてもともと存在しているものではありません。かまぼこなどの加工食品も、原材料は魚です。米は稲の種子であり、小麦粉は小麦の胚乳(胚のミルク)です。食品は、動物、植物、ときには微生物を起源とした生物体なのです。食塩は唯一の例外です。

私たちは、食事をするとき「いただきます」と言います。「私たちが生きていくために、動物や植物の命をいただく」ということなのです。おいしいところだけを取り出して食べるのでなく、多様な動植物の持つ栄養成分とともに、機能性成分を最大限に生かすこと。そして、食べ物に対する感謝の念を持つことが、何より大切なことでしょう。